消化器内科とは
口から肛門まで続く一本の長い管のことを消化管といい、ここでは口で取り入れた食物を消化し、その中のエネルギーを吸収、そして不要なものを排泄していくという役割があります。その間には食道、胃、十二指腸、小腸、大腸といった器官があります。これらで起きた症状や病気について内科的(主に薬物療法)に診療していくのが消化器内科です。このほか、消化管に関連する肝臓、膵臓、胆のうにつきましても診療範囲に含まれます。
消化器症状といえば、胸やけ、腹痛、嘔吐、吐き気、下痢、便秘といった症状がよく見受けられます。それらの症状はウイルスや細菌に感染したものなのか、ポリープや潰瘍、胆のう結石といった病変によるものなのかなど様々な可能性が考えられます。原因を突き止めるために視診や触診だけでなく、レントゲン撮影、腹部超音波検査、内視鏡検査(胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査)といった詳細な検査を行うなどして診断をつけていきます。日本消化器病学会専門医の医師が診療にあたります。
このような症状のある方は、当クリニックを受診ください
- お腹の調子が悪い
- 胃が痛い
- 胃もたれがする
- 胃がむかつく
- げっぷが出る
- 吐き気がする
- 嘔吐が続く
- 胸やけがする
- 便秘気味である
- 下痢を繰り返す
- 血便が出た
- 食欲が無い
- 急に体重が減少した
- 顔色が悪いと言われる など
一般内科でよく扱われる主な疾患
- 逆流性食道炎
- 食道カンジダ症
- 急性胃炎
- 慢性胃炎
- 胃・十二指腸潰瘍
- ピロリ菌感染症
- 機能性消化管障害(機能性ディスペプシア=機能性胃腸障害、過敏性腸症候群)
- 感染性胃腸炎
- 急性腸炎(虫垂炎、憩室炎、虚血性腸炎など)
- 便秘症
- 下痢症
- クローン病
- 潰瘍性大腸炎
- 脂肪肝
- 急性肝炎
- 慢性肝炎
- 肝硬変
- 胆石
- 胆嚢炎
- 胆嚢ポリープ
- 急性膵炎
- 慢性膵炎
- 食道がん
- 胃がん
- 大腸がん
- 肝がん
- 胆嚢がん
- 膵がん など
逆流性食道炎
逆流性食道炎とは
胃酸や胃の内容物が胃から食道へ逆流する「胃食道逆流症」の中で、胃酸などが食道の粘膜を傷つけ炎症を起こす状態を「逆流性食道炎」と呼びます。食生活の欧米化やピロリ菌感染率の低下、高齢化などにより患者数は増加傾向にあります。日本人の3分の1がかかっていると考えられます。
逆流性食道炎は、バレット食道や食道がんなどの合併症を引き起こす可能性があります。
逆流性食道炎の原因
胃と食道の間にある噴門部には、下部食道括約筋があります。この括約筋は食べ物が入る時以外は食道を閉じて胃液の逆流を防ぐ役割を担っています。下部食道括約筋の機能が低下することで胃酸や胃液の逆流が起こります。これには食道裂孔ヘルニアが関係しているとされています。
その他の要因としては、食道蠕動運動の機能低下、加齢、肥満、飲酒、姿勢、腹圧、薬の副作用、欧米型の食生活、塩分摂取量の低下、ピロリ菌感染率の低下(=胃酸の分泌増加)などがあります。
逆流性食道炎の症状
呑酸(胃酸が上がってくる)、胸やけが生じる、吃逆(げっぷが出る)といったものが代表的で、その他に胸が痛い、声がかすれる、慢性的に咳が出る、喉がつまる感じがする、喉の異物感と多彩な症状を起こします。
逆流性食道炎の予防、治療
高脂肪食をはじめチョコレート、アルコール、コーヒー、炭酸飲料、柑橘系ジュース、香辛料、玉ねぎなどが挙げられます。また、餅やあんこ、饅頭なども増悪因子と考えられます。食事療法としては、これらの食事を避けることが重要です。たばこもLES(下部食道括約筋)圧を低下させ、胃食道逆流症の増悪因子となるので喫煙は避けて下さい。また、腹圧の上昇が逆流の原因、増悪因子となることから、食べ過ぎに注意する、前屈位を避ける、食べてすぐ横にならない等の注意が必要となります。そして、就寝時の上半身挙上は、胃酸逆流を抑制させるので、薬物治療とともに有効な治療法となります。このように食事・生活様式は胃食道逆流症と深く関わっているので改善することが重要です。
内服薬としてはプロトンポンプ阻害薬 (PPI) がよく使用されます。プロトンポンプ阻害薬は胃酸分泌を抑制する効果があり、胃酸の逆流を抑えることができるため、症状の改善が期待できます。
しかし問題となるのは、症状が改善し薬の服用を中止すると、再び同じ症状が現れることが多く認められることです。そのため症状が改善しても、薬の量を減らして服用を続けることもあります。
生活習慣の改善や薬物療法を実施しても改善されなければ、手術が行われることもあります。
バレット食道
通常、食道の粘膜は扁平上皮、胃や腸は円柱上皮という粘膜に覆われています。逆流性食道炎などで炎症を起こして傷害された食道の扁平上皮が、胃から連続して胃と同じ円柱上皮で置き換えられたものをバレット粘膜といい、バレット粘膜が存在する食道をバレット食道といいます。
バレット食道の発症過程において、胃食道逆流症は大きな要因であると考えられています。肥満、喫煙などによってもバレット食道を発症するリスクが高まります。一方、消化性潰瘍に重要な因子であるピロリ菌に感染すると、胃酸の分泌が低下するためバレット食道の発症リスクが低くなると考えられています。その他、野菜や果物などの食物もバレット食道の発症を低下させるといわれています。
パレット食道には食道がんとの関係があります。欧米では、逆流性食道炎の発生頻度が高いです。そのため胃食道逆流→逆流性食道炎→パレット食道→細胞異型→食道腺がんを発症すると考えられており、日本でも頻度は高まってきています。バレット食道と診断されたら、定期的な上部消化管内視鏡検査が必要です。
急性胃炎
急性胃炎とは
胃の粘膜に急激な炎症が引き起こされた状態を指します。多くの場合は胃の安静を保つことで自然に症状が消失します。
急性胃炎の原因
消炎鎮痛剤、抗生物質、ステロイド、腐蝕性物質、香辛料などの薬剤が最多で、次にアルコール・ストレスなどが多く、異物ではアニサキス、魚骨が多く、男性に多いといわれています。熱傷や手術、感染に起因するものもあります。
急性胃炎の症状
みぞおち辺りのキリキリとした痛みや吐き気、嘔吐、下痢などの消化器症状が生じます。胃の粘膜の障害が強い場合には出血が起こり、吐血をしたり、下血を起こしたりすることもあります。
急性胃炎の検査、診断
急性胃炎が疑われるときには、腹痛をきたす多くの病気との鑑別が必要とされます。急性膵炎や虫垂炎、胃潰瘍、胆石症、急性胆嚢炎などが挙げられます。これらと鑑別するためには、発症時の状況や痛みの広がり具合などの問診と診察により、情報を整理することが求められます。血液検査や腹部超音波検査がを行いその他の病気の有無を調べます。
確定診断には上部消化管内視鏡検査が必要です。びらんや出血、潰瘍の有無などを確認し、胃の粘膜の状況を詳細に評価します。また、ピロリ菌の存在を評価するための検査が追加されることもあります。
急性胃炎の治療
多くの場合は胃の安静を保つことで自然に症状が消失します。症状の程度に合わせて、点滴や制酸薬、胃粘膜保護薬などの薬剤を使用することも検討します。
また、原因に対してアプローチすることも重要です。ストレスが原因となっている場合には、定期的に休息を取ること、運動すること、充分な睡眠を確保することなどが大切です。ピロリ菌の関与が疑われる際には、除菌療法を行うこともあります。
慢性胃炎
慢性胃炎とは
長期間に胃炎が続いている状態のことです。慢性胃炎にはヘリコバクター・ピロリ菌の感染が関わっていると考えられています。ピロリ菌が胃の中に棲みついてしまうことで少しずつ胃粘膜を痛めつけて、徐々に炎症が広がっていくことで起こります。
慢性胃炎の原因
ピロリ菌に感染すると好中球やリンパ球といった白血球を動員して排除しようとして炎症が起こります。また、ピロリ菌自体が毒素を出すことで、直接胃粘膜を痛めつけることも証明されています。痛めつけられた胃粘膜は萎縮性胃炎という状態となり、粘膜が薄くなり、粘膜の下を走る血管まで透けて見えるようになります。ピロリ菌が存在している状態で、胃粘膜が再生すると正常な胃の上皮ではなく大腸や小腸の粘膜に似た上皮が形成されてしまいます。この状態は、腸上皮化生と呼ばれ、腸上皮化生の粘膜からは胃がんが発生しやすくなります。慢性胃炎、特に腸上皮化生を伴うものは前がん病変として注意が必要です。
慢性胃炎の症状
上腹部不快感、上腹部痛、食欲不振など様々です。
慢性胃炎の検査、診断
近年では症状がなくても、検診や人間ドッグなどで行うスクリーニングとしての上部消化管内視鏡で指摘されることが多くなってきています。上部消化管内視鏡検査で炎症の程度や広がり、萎縮の程度、腸上皮化生の有無を診断します。特に重要なのは胃がんの合併で、肉眼的に癌が疑われる場合は組織を採取して、病理検査にて詳しく調べます。
慢性胃炎の治療
原因であるピロリ菌の除菌が推奨されます。ピロリ菌の除菌により逆流性食道炎などの悪化が見られることがあるため、基礎疾患を有している方に対しては注意が必要です。
慢性胃炎は治療をしても、正常な胃粘膜に戻ることは期待できません。診断されたら少なくとも年に1回の上部消化管内視鏡検査を行いましょう。
胃十二指腸潰瘍
胃十二指腸潰瘍とは
胃や十二指腸に潰瘍が形成された状態を指します。胃粘膜による防御の働きと胃酸による攻撃とのバランスが崩れることで発症するといわれています。原因は様々であり、ピロリ菌との関連や鎮痛剤などの薬剤、ストレス、暴飲暴食、喫煙習慣、カフェイン摂取などが挙げられます。胃潰瘍は40歳代~50歳代、十二指腸潰瘍は20歳代~40歳代の若年者に多いといわれています。
胃十二指腸潰瘍の症状
胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時に、腹痛が増強しやすいという特徴があります。
また、潰瘍が形成されると、潰瘍のある場所から出血し、タール便(黒色便)として便の変化が見られることがあります。その他にも、貧血、疲れやすさや顔色不良などがあげられます。
胃十二指腸潰瘍の検査、診断
潰瘍が生じている状況を確認するため、上部消化管内視鏡検査が行われます。この検査により、潰瘍の深さ(活動期、治癒過程期、瘢痕期)や大きさ、出血状況の有無などを詳細に観察することが可能です。
ピロリ菌の関与が疑われる際には、ピロリ菌の検出を目的とした血液検査や迅速ウレアーゼ検査なども行われます。貧血の確認も重要です。
胃十二指腸潰瘍の治療
プロトンポンプ阻害薬やプロスタグランジン製剤などの内服薬の使用を検討します。潰瘍からの出血に緊急に対応する必要がある場合は、内視鏡で止血術を行います。貧血の程度によっては、輸血も検討します。
胃十二指腸潰瘍では、病気を起こした原因に対しての対策を取ることも大切です。ピロリ菌除菌、鎮痛剤の変更、ストレスや暴飲暴食が原因と考えられる際には、生活環境を整え少しでも潰瘍が生じにくいように心がけることが大切です。
胃十二指腸潰瘍と診断されたら潰瘍の悪化がないか、また悪性病変が隠れていないかを定期的に上部消化管内視鏡検査を行い、観察していくことが重要です。
機能性ディスペプシア(機能性胃腸障害)
器質的疾患(逆流性食道炎、胃・十二指腸潰瘍、胃炎など)を認めないにもかかわらず、胃痛など様々な症状を自覚する状態を指す病態です。上部消化管内視鏡検査などをしても異常が見つからない場合も多々あり、機能的な異常が原因となるのが機能性ディスペプシアです。約20%の方が胃・十二指腸に由来する慢性症状を持っており、その多くは、器質的疾患を持たない機能性疾患であるともいわれています
機能性ディスペプシアは、過敏性腸症候群とともに機能性消化管障害に属します。機能性消化管障害とは、消化管粘膜などに器質的な異常を認めず、消化管運動の異常など機能的な異常が原因の疾患をまとめたもので、過敏性腸症候群と機能性ディスペプシアが機能性消化管障害を代表する2大疾患です。過敏性腸症候群が主に大腸の機能的な異常により発症するのに対し、機能性ディスペプシアは主に胃の機能的な異常により発症します。
原因は胃自体の動き、食物が胃・十二指腸に触れた時の知覚、胃酸の分泌、ヘリコバクター・ピロリの感染、生活習慣や心理的な問題も複数関与すると考えられています。
治療としては酸分泌抑制剤の投与、消化管運動機能改善薬、胃粘膜保護薬、漢方薬、抗うつ薬、抗不安薬などの使用、併用をすることで治療を行っていきますが、合わせて生活指導も重要です。
過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは
精神的なストレスや自律神経バランスの乱れなどによって腸の働きに異常が生じ、便秘や下痢など排便の異常を引き起こす病気のことです。排便の異常の現れ方は人によって異なり、下痢型、便秘型、混合型、分類不能型の4つのタイプに分けられています。腹痛やお腹の張りなどを伴うことも多いです。このような症状が3か月以上続く場合に過敏性腸症候群が疑われますが、いずれのタイプでもストレスや疲れがたまると症状が悪化し、就寝中や休日などは症状が現れにくいです。また、排便すると一時的に症状が改善することも特徴の1つです。
日本人の10%程度は過敏性腸症候群であるとされており、多くの方が悩まれている病気です。
過敏性腸症候群の原因
多くは過度なストレスや緊張などによって引き起こされると考えられていますが、原因がはっきり分からない事も多いです。感染性腸炎にかかった場合、回復した後に過敏性腸症候群になりやすいということが報告されています。
過敏性腸症候群の診断
大腸がんなどの悪性腫瘍や、炎症性腸疾患、消化管の感染、甲状腺の機能異常、糖尿病による胃腸障害などの異常が見つからないことが条件であるため、大腸内視鏡検査、血液検査や尿検査、便検査、超音波検査などを行う必要があります。
過敏性腸症候群の治療
まずは暴飲暴食を避ける、深夜の食事、高脂肪食、刺激物、飲酒を控えて体への普段を減らしましょう。十分な睡眠と適度な運動を行い、ストレスを溜めない生活が重要です。
整腸剤や腸蠕動促進薬、漢方薬、止痢剤、緩下剤などを症状に応じて使う必要があります。心理的な不安が強い場合は抗うつ薬や抗不安薬が処方される場合もあり、複数の薬を組み合わせた投薬治療が必要となる方もいます。
感染性胃腸炎
感染性胃腸炎とは
何らかの微生物が原因となって引き起こされる腸の病気の総称です。突然の嘔吐、下痢、腹痛や発熱などの症状を起こします。
原因になる微生物は、細菌、ウイルス、原虫、寄生虫、真菌など様々です。感染性胃腸炎のなかで代表的なものとしては、ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎があり、これらは感染性胃腸炎の大半を占めています。症状が出るまでの潜伏期間や症状は様々です。
ウイルス性胃腸炎の種類
感染性胃腸炎の中で最も多いです。病原体としては主にノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスの3つが指摘されています。二枚貝の生食、感染した調理人による食品の二次汚染、感染した人から人への感染があります。冬季に多い傾向があります。
- ノロウイルス:1~2日の潜伏期間を経て激しい嘔吐、下痢の症状で発症します。2~3日は強い症状が続きますが、その後は速やかに症状が改善することが多いです。
- ロタウイルス:初期に高熱が出ることが多いです。嘔吐は1~3日で治まりますが1週間程ひどい下痢が続くことが多いという特徴があり、脱水を起こしてしまう危険性があります。ロタウイルスに感染すると胆汁の分泌が悪くなり、その影響で便がレモン色や白色になることがあります。
- アデノウイルス:下痢や腹痛が主な症状で、発熱や嘔吐は目立ちません。症状が下痢だけのケースもあります。下痢は1週間程度継続します。季節を問わず発症が見られます。
細菌性胃腸炎とは
病原菌として、病原性大腸菌、サルモネラ菌、カンピロバクター、ブドウ球菌、エルシニアなどがあります。小児でもしばしば発症がみられます。生肉、加熱不十分な肉、内臓、鶏卵、サラダなどの食べ物や水から感染します。梅雨の時期や夏に多い傾向があります。
嘔吐を伴うことはありますが、中心となるのは腹痛や下痢、血便などの下腹部の症状です。
感染性胃腸炎の診断、治療
患者の症状や状況の聴取から診断されます。多くの場合は、食べた食品や状況などから原因となる細菌やウイルスを推定します。
どの胃腸炎でも基本的な治療方法は変わりがないことが多いため、原因となる細菌やウイルスを特定する検査は必須ではありません。止痢剤は感染を留めてしまうため、整腸剤の内服を行い脱水にならない程度の経口摂取で十分です。細菌性腸炎が疑われる際は抗菌剤の処方をされることもあります。症状が数日以上長引く場合には便の培養検査や大腸内視鏡検査などが行われることもあります。
虫垂炎
青年期と20歳代で起こることが最も多く、5%以上の人が生涯で発症します。虫垂は小腸との接合部近くの盲腸から突出した小さな管状の部分です。虫垂には若干の免疫機能がありますが、生命維持に必須な臓器ではありません。虫垂内部が閉塞することで炎症を起こす事が原因で、硬便の塊(糞石)、異物などにより生じます。炎症が持続すると、虫垂が破裂し腹膜炎に至ります。最悪の場合は敗血症(全身に感染が拡がること)を起こすと死に至ることもあります。女性では、卵巣や卵管が感染して、閉塞を起こして不妊症の原因となることがあります。
典型的には微熱を認め、腹痛が上腹部または臍周囲から始まり、その後吐き気と嘔吐が生じて、徐々に痛みの部位が右下腹部に移動するといわれていますが、その限りではありません。診察で虫垂炎が疑われたら血液検査や腹部超音波検査、腹部CT検査を行い確定診断をつけ、治療することが必要です。症状が軽度であれば抗菌薬による保存加療(いわゆる散らす)を行うことも可能ですが、症状が強い方や小児、ご高齢の方は重症化しやすく手術が必要となります。
また保存加療を行った後で再発する可能性は20~30%程度と言われています。
大腸憩室症(大腸憩室炎、大腸憩室出血)
腸管の外側に向かって風船のように飛び出した大腸の壁の一部分のことを大腸憩室といいます。
食物繊維摂取量の低下や、高度な便秘による腸管内圧の上昇などで加齢と共に増加します。日本では右側結腸(盲腸~上行結腸)に多く、加齢と共に左側結腸(下行結腸~S状結腸)に発生するといわれています。
大腸憩室の多くは無症状ですが、近年では食生活の欧米化や高齢化により、憩室炎(憩室に炎症が起こり腹痛の原因となる)や憩室出血(憩室部の血管が破けて血便の原因となる)などの大腸憩室疾患が増加してきています。50歳代では30%、70歳代では50%の方に憩室を認めるといわれています。
大腸憩室炎が起きると下腹部痛や下痢、発熱を認めるようになり、重症化すると穿孔し腹膜炎に至る場合もあります。腸管の安静と抗菌剤の投与を行い、必要に応じて入院加療も検討します。
大腸憩室出血が起きると下血を起こします。一般的には鮮血でない赤褐色便と表現されます。少量の場合は経過観察で十分ですが、大量に出る場合は画像検査を行い、必要に応じて大腸内視鏡検査を行い緊急での止血術が必要となる可能性があります。憩室がある方の累積出血率は、1年で0.2%、5年で2%、10年で10%と報告されています。一方、憩室炎は頻度が高く、憩室出血の約3倍程度といわれています。
虚血性腸炎
大腸の血管である腸間膜動脈の分枝である結腸動脈末梢枝の閉塞、狭窄が一時的に起こることで、大腸壁が血流不足に陥り、粘膜に炎症や潰瘍などができる病気です。50歳以上の方に好発し、左側の下行結腸を中心に血流低下が起こりやすいと言われています。高血圧や糖尿病などにより動脈硬化を来している方に多く起こります。便秘も誘因となります。腹痛や下痢、血便などの症状が現れ、ごく稀に腸閉塞による膨満感や嘔吐、腸管壊死が起きることもあります。
虚血性腸炎が疑われる場合は、血液検査や腹部超音波検査、大腸内視鏡検査、必要に応じて腹部CT検査を行います。軽症であれば、外来にて経過観察とし、軽快する場合がほとんどです。多くは輸液、絶食による腸管安静で数日程度で軽快しますが、腸管の壊死や狭窄、穿孔を認めれば、手術が必要となります。
クローン病
クローン病とは
大腸及び小腸の粘膜に慢性炎症、潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(Inflammatory Bowel Disease:IBD)といいます。クローン病もこの炎症性腸疾患の一つで、1932年にニューヨークのマウントサイナイ病院の内科医クローン先生らによって限局性回腸炎としてはじめて報告された病気です。日本では難病の1つに指定されており、発症率は10万人に27人程度とされています。
発症年齢は男性で20~24歳、女性で15~19歳が最も多くみられます。男性と女性の比は、約2:1と男性に多くみられます。喫煙をする人は喫煙をしない人より発病しやすいといわれています。
クローン病の原因
現在のところはっきりした発症原因は分かっていません。
世界的にみると、先進国に多く北米やヨーロッパで高い発症率を示します。食生活や腸内環境の状態も発症に関与していると言われており、動物性脂肪、タンパク質を多く摂取し、生活水準が高いほどクローン病にかかりやすく、腸に潜んでいるリンパ球などの免疫を担当する細胞が過剰に反応して病気の発症、増悪に至ると考えられています。同じ家系内で発症者が出やすいことなどから、何らかの遺伝的な要因が関与しているとの説があります。
クローン病の症状
口腔に始まり肛門に至るまでの消化管のどの部位にも炎症や潰瘍が起こり得ますが、小腸と大腸を中心として特に小腸末端部が好発部位です。非連続性の病変(病変と病変の間に正常部分が存在すること)を特徴とします。特徴的な症状は腹痛と下痢で、半数以上の方で見られます。さらに発熱、下血、腹部腫瘤、体重減少、全身倦怠感、貧血などの症状も現れます。瘻孔(トンネルを作り臓器がつながること)、穿孔(腸の壁に穴が開くこと)、狭窄(腸の壁が厚くなって狭くなること)、膿瘍(膿の塊を作ること)などの腸管の合併症や関節炎、虹彩炎、結節性紅斑、痔ろうなどの肛門部病変などの腸管外の合併症も多いです。病変は1か所だけでなく、同時に複数の器官に炎症を伴う場合も少なくありません。
クローン病の診断
上記の症状や貧血などの血液検査異常からクローン病が疑われ、画像検査にて特徴的な所見が認められた場合に診断されます。まずは胃内視鏡検査、大腸内視鏡検査を行い消化管の内部を観察していきます追加で腹部CT検査、小腸造影、カプセル内視鏡などが行われます。内視鏡検査や手術の際に同時に採取される検体の病理(組織)検査や、肛門病変の所見などが診断に有用な場合もあります。
クローン病の治療
内科治療(栄養療法や食事療法、薬物療法など)と外科治療があります。内科治療が主体ですが、腸閉塞や穿孔、膿瘍などの合併症には外科治療が必要となります。
栄養療法、食事療法
栄養状態の改善だけでなく、腸管の安静と食事からの刺激を取り除くことで腹痛や下痢などの症状の改善と消化管病変の改善が認められます。一般的には低脂肪かつ低残渣の食事が推奨されていますが、個々の患者さんで病変部位や消化吸収機能が異なっているため、自分にあった食品を見つけることが重要です。
内科治療
症状のある活動期には、主に5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製薬)、副腎皮質ステロイドや免疫調節薬などの内服薬が用いられます。クローン病は再発を繰り返すことが多いため、症状が改善しても5-ASA酸製薬と免疫調節薬は継続して投与することが重要です。これらの治療が無効であった場合には、抗TNFα受容体拮抗薬が使用されます。
外科治療
高度の狭窄や穿孔、膿瘍などの合併症に対しては外科治療が行われますが、今後も同様の症状を起こすことがあり、小範囲の切除や狭窄形成術などを行うようにします。
潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは
大腸の粘膜と粘膜下層を侵し、びらんや潰瘍を作る大腸の炎症性疾患です。日本では難病の1つに指定されており、発症率は10万人に100人程度です。発症年齢は男性で20~24歳、女性では25~29歳に多くみられますが、小児から高齢者まで発症します。男女比は1:1で性別に差はありません。喫煙をする人はしない人と比べて発病しにくいと言われています。病変の拡がりに応じて全大腸炎、左側大腸炎、直腸炎型に、病期に応じて活動期、寛解期に、重症度に応じて軽症、中等症、重症、激症に分類されます。
潰瘍性大腸炎の原因
腸内細菌の関与や免疫機構が正常に機能しない自己免疫反応の異常、あるいは食生活の変化の関与などが考えられていますが、まだ原因は不明です。しかし、家族内での発症も認められており、何らかの遺伝的因子が関与していると考えられています。欧米では約20%の方に潰瘍性大腸炎あるいはクローン病の近親者がいると報告されています。
潰瘍性大腸炎の症状
病変は直腸から連続的に、そして口側に広がる性質があり、重症化すると直腸から結腸全体に拡がります。腹痛、下痢、血便などが現れ、重症な場合は発熱、体重減少、貧血など全身に様々な症状が引き起こされます。
潰瘍性大腸炎の診断
下痢の原因となる細菌や他の感染症を検査し、除外することが必要です。
炎症や出血による貧血の程度を評価するために血液検査を行い、大腸がんを併発しているケースもあるため、腫瘍マーカーを調べます。
大腸内視鏡検査を行い、炎症や潰瘍がどのような形態で、どの範囲まで及んでいるかを調べます。大腸粘膜の一部を採取し検査を行うことで、病理診断を行い診断します。
潰瘍性大腸炎の治療
完治に導く内科的治療はありません。治療の目的は大腸粘膜の異常な炎症を抑え、症状を管理することです。軽症、中等症では5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製薬)、ステロイド投与から開始します。ステロイドで効果が得られない場合は血球成分除去療法(血液中から異常に活性化した白血球を取り除く治療法)、免疫調節剤、免疫抑制剤、生物学的製剤などが使用されます。それぞれの症状や副作用の有無などを注意深く観察しながら治療を行います。多くの方では症状の改善や消失(寛解)が認められますが、再発する場合も多く、寛解を維持するために継続的な内科治療が必要です。
多くの場合は内科治療で症状が改善しますが、内科治療無効、大出血、穿孔、大腸がんの合併などを起こした際は大腸全摘術が必要となります。
また発病して7~8年経つと大腸がんを合併する方が出てくるため、症状がなくても定期的な大腸内視鏡検査が重要です。定期通院による投薬と検査を行う事で、多くの方の生命予後は健常人と同じです。