肝臓について

肝臓内科

肝臓は腹部の右上にある臓器で消化管の消化や吸収を助けていきます。その重さは1kg以上にも及び人体の中では最も大きな臓器となります。消化液である胆汁の生成、たんぱく質や糖質などから栄養分等を取り込んでいき貯蔵をしていく、体外より摂取あるいは体内でつくられた有害な物質を無毒化する、排泄するといった働きをしていくのですが、その大半が肝臓の8割を占めるとされる肝細胞が行っています。
この肝細胞が何らかの原因によって障害を受けることで、肝機能は低下していくようになりますが、そのきっかけとなることが多いのが肝炎や脂肪肝です。慢性化し、肝細胞の壊死が進むと肝硬変となって、肝臓が元の状態に戻るということが困難になります。また肝硬変を発症すると肝がんになる危険性も高くなります。
肝臓の病気は、自覚症状として現れることが少ないため、病状が進行していても放置してしまうということが少なくありません。このような見過ごしが起きないためにも定期的に肝機能検査や肝炎ウイルス検査、腹部超音波検査などを受けるなどして、早期発見・早期治療を心がけるようにしてください。
日本肝臓学会専門医の医師が診療にあたります。

肝臓内科の主な対象疾患

  • 脂肪肝
  • 肝がん
  • 急性肝炎
  • 慢性肝炎(アルコール性、ウイルス性(B型、C型など))
  • 自己免疫性肝炎
  • 肝硬変
  • 胆石症
  • 胆のうポリープ
  • 膵炎など

脂肪肝

脂肪肝とは

肝臓内に中性脂肪(トリグリセライド)が蓄積してしまうことで肝障害が起きてしまう疾患です。原因については、過食や運動不足などで引き起こされる肥満、アルコールの大量摂取、糖尿病などが挙げられます。

脂肪肝の症状

自覚症状が現れることは少ないとされていますが、人によっては疲れやすい、だるい、腹部の違和感などを訴えることもあります。無症状であっても健診などの結果から、肝機能の状態をみるAST値やALT値の数値に異常があったり、中性脂肪が高い場合は脂肪肝の発症も考えられます。この場合は詳細な検査(血液検査、腹部超音波検査)をして診断をつける必要があります。脂肪肝は進行させると肝炎、肝硬変、肝がんの原因となることもあるので早期発見、早期治療が重要です。

脂肪肝の治療

アルコールが原因による脂肪肝であれば、肝硬変に至らないように禁酒を徹底し、生活習慣も改善していきます。アルコール以外が原因の脂肪肝であれば、生活習慣の是正が重要です。食べ過ぎず、栄養バランスがとれた食生活を心がけていきます。そして肝機能が回復傾向になれば、無理をしない運動(有酸素運動)も始めていきます。また糖尿病が原因の脂肪肝であれば、糖尿病の治療を行います。

肝炎

肝炎とは

肝臓が炎症を起こしている状態が肝炎です。原因は主に肝炎ウイルスに感染することで発症すると言われています。主に急性肝炎と慢性肝炎に分類され、急性肝炎を発症し、その肝炎ウイルスをうまく駆逐できなかった場合に慢性肝炎になりやすいです。なお肝炎ウイルスはA~E型まで5つのタイプのウイルスが存在するとされ、そのうちB型とC型については、慢性肝炎になりやすく、これらは日本人が一番感染しやすいタイプでもあります。A、B、E型には予防のためのワクチンがありますが、C、D型にはありません。

原因、症状

発熱、倦怠感、食欲不振などで、悪化すると黄疸(皮膚や白目が黄色くなる)のほか、右上腹部に痛みが現れることもあります。
感染経路については、A型とE型については、水や食べ物(牡蠣や猪など)を介して感染することが多く、B、C、D型については、血液や体液を通じて感染するといわれています。
最近はNASH(非アルコール性脂肪性肝炎)との関連がトピックスとなっています。

B型肝炎

B型肝炎の原因、診断

乳幼児で感染する場合と成人になってから感染する場合があります。前者の場合は母子感染で、B型肝炎ウイルス(HBV)キャリアを持つ母親からの垂直感染もありますが、家族内での水平感染も考えられます。後者は、性的接触、医療関係者などの針刺し事故、輸血、臓器移植、刺青、注射の打ち回しといったことが原因になります。
なお乳幼児は、免疫反応が完全に備わっていないことから、この時期に感染してしまうとHBVを排除しにくく、慢性化しやすい状態になります。慢性化すると自覚症状が現れるようになり、成人後に肝硬変や肝がんを発症しやすくなります。
成人後に感染した場合は、初めて感染した時期や健康状態によって異なるとされます。一過性感染(自覚症状が出ずに自然に治ってしまうこともあります)で済む場合もあれば、感染が半年以上続く持続感染に至ることもあります。持続感染の場合は自覚症状がないB型慢性肝炎と診断され、慢性化してしまうと肝硬変や肝がんを発症する危険性が高まります。

B型肝炎の治療

急性B型肝炎:安静や栄養補給といった保存的治療が中心です。
慢性B型肝炎:抗ウイルス療法(インターフェロン、核酸アナログ製剤)を行います。

C型肝炎

C型肝炎とは

C型肝炎ウイルス(HCV)に感染することで感染する病気で、主な感染経路は血液感染(針刺し事故、輸血、注射針の使い回し、臓器移植など)です。5つのタイプの肝炎ウイルスの中で最も慢性化する確率が高いといわれています。

C型肝炎の症状

急性C型肝炎の場合は、倦怠感や発熱、食欲不振がみられることがありますが、症状は非常に軽いといわれています。しかし急性C型肝炎が治まったとしても、70%程度の方に慢性化(C型慢性肝炎)が見られます。さらに初めての感染以降は、症状が出ないことが多く、肝硬変、肝がんといった肝疾患を発症させる危険性が高くなります。そのため、症状がなくてもC型慢性肝炎との診断(HCV抗体陽性)を受けたら速やかに受診してください。HCV抗体陽性だけでは過去の感染か、現在の持続感染か不明なため、HCV核酸増幅検査(HCV-RNA定量検査)という遺伝子検査を行います。また、ゲノタイプ(型)を調べます。

C型肝炎の治療

以前は抗ウイルス薬療法(ペグインターフェロン、リバビリンなど)が行われていましたが、近年は直接作用型抗ウィルス薬(DAA)のNS3/4Aプロテアーゼ阻害薬(グレカプレビル)とNS5A阻害薬(ピブレンタスビル)の配合剤であるマヴィレットの8週間~12週間投与することで、過去にDAA使用歴のない方は99%治療できるといわれています。

肝硬変

肝硬変とは

ウイルス性肝炎(B型、C型など)、アルコール性肝障害、非アルコール性脂肪性肝炎、自己免疫性肝炎など、長期的に肝臓が損傷される病気(慢性的な炎症)によって、肝臓が線維化(肝細胞が硬くなる)し、それによって肝臓がうまく機能できない状態のことです。このように様々な肝臓疾患が引き金となるわけですが、なかでもC型肝炎ウイルスをきっかけとした肝硬変が全体の6割を占めるといわれています。

肝硬変の症状

発症初期で何らかの症状が現れることはありませんが、ある程度進行するようになると、体のだるさ、疲れやすさ、食欲不振、全身がむくむ、黄疸、手が震える、意識がもうろうとするなどの症状がみられるようになります。また肝硬変を発症すると肝細胞がんや食道静脈瘤を発症させる危険性も高くなります。

肝硬変の治療

完治させることは現時点ではできません。
生活習慣の改善(食生活の見直しなど)や症状を和らげるための対症療法が中心で、これ以上悪化させないようにすることが大切です。

胆嚢について

食事中の脂肪の分解を助けている胆汁という消化液は肝臓でつくられます。この胆汁を肝臓から十二指腸に運ぶ管を胆管といいますが、胆管の途中で枝分かれする形で胆のうという袋状の臓器があります。胆のうは一時的に胆汁を貯めておき、油の多い食事を摂った際などには、消化管に到達すると収縮して貯めておいた胆汁を十二指腸に排出する働きをしています。

胆石症

胆石症とは

胆嚢内に1つまたは複数の結石(胆石)が存在する病態です。成人の約10%、65歳以上の高齢者の20%で胆石がみられますが、胆石は無症状のことが多いです。最もよく見られる症状は胆石発作(痛み)であり、胆嚢の出口に結石が詰まってしまって痛みを起こします。胆汁の流れが滞ると、細菌感染を起こし胆嚢炎を起こします。

重篤な合併症としては、胆嚢炎、胆管結石に伴う感染(胆管炎)を伴う胆道閉塞(胆管内の結石による総胆管結石症)、胆石性膵炎などがあります。発熱、右季肋部痛(右肋骨の下側の痛み)、背部痛、黄疸が生じることがあります。

胆石を有する無症状の方では,年に約2%で症状が出現するようになります。症状が一旦出現すると再発の可能性が高く、年に20~40%の方で痛みが再発し、約1~2%で胆嚢炎、総胆管結石症、胆管炎、胆石性膵炎などの合併症が発生するといわれています。

胆石の種類

胆汁には、コレステロール、レシチン、胆汁酸、ビリルビンなどが含まれており、これらのバランスが保たれていることで液体の状態になっています。胆石はこれらのバランスが崩れることで発生します。

  • コレステロール結石:脂質の多い食事を続けると胆汁中のコレステロールの割合が増加します。次第に溶けきれなくなって生じる結石であり、胆石の中の大半を占めています。
  • ビリルビンカルシウム結石:胆汁に細菌感染が起こって生じる結石。
  • 黒色石:溶血(赤血球の中のヘモグロビンが外に出ること)や肝硬変が原因となって生じる結石。

また、胆石を起こしやすい要素として、
①40歳代(Forty)、②女性(Female)、③肥満(Fatty)、④白色人種(Fair)、⑤多産婦(Fecurd)が挙げられ、これらの項目は5Fと呼ばれています。その他、肥満や妊娠、糖尿病、甲状腺機能低下症、脂質異常症などのほかに、長期の絶食状態(急なダイエット)や胃切除後状態なども関与しているといわれています。

胆石症の診断、治療

診断は腹部超音波検査により行い、胆石症による症状または合併症が生じた場合は胆嚢摘出術が必要になります。
手術を拒否する患者や手術リスクの高い方では、何カ月にもわたって胆汁酸を内服することで、胆嚢結石を溶解させることが可能となります。この治療の対象は、X線透過性の小さい(レントゲンで映らない)結石(コレステロールで構成される可能性が高い)があり、胆嚢に閉塞がなく機能が維持されている方になります。直径5mm未満の小さな結石の80%を6カ月以内に溶解させることができますが、溶解療法が成功した後も、5年以内に50%の患者で結石が再発すると言われています。

胆石症と言われたら定期的な腹部超音波検査で胆嚢結石の評価をすることが重要です。

胆嚢ポリープ

胆嚢ポリープとは

胆嚢ポリープは、胆嚢の内側にできる隆起性変化の総称で、健康診断や人間ドックの際に腹部超音波検査で偶然に見つかることが多いといわれています。

胆嚢ポリープの種類

形態からは、キノコのように茎を持つ有茎性ポリープと茎がはっきりしない亜有茎性ポリープ、茎を持たず扁平に盛り上がる広基性ポリープなどがあり、亜有茎性ポリープと広基性ポリープの中にがんが含まれていることがありますが、形態だけでがんかどうかの断定はできません。

胆嚢ポリープの中で最も多いのはコレステロールポリープです。胆汁に含まれるコレステロールが胆嚢壁にしみ込んで沈着し粘膜が隆起したもので、多発することが多く、数ミリ以内のものが多いです。

  • 過形成ポリープ:胆嚢の上皮細胞が過剰に増殖したもの
  • 炎症性ポリープ:胆嚢の上皮細胞の下にある粘膜固有層の増殖で、慢性胆嚢炎などにより発生したもの
  • 胆嚢腺腫:単発(1つ)で生じて、基本的には良性ですが、一部がん化する可能性もあります

胆嚢ポリープの検査、治療

腹部超音波検査が、簡便で良くわかる検査です。他に、腹部CTや超音波内視鏡検査が重要となります。10mmを超えてもコレステロールポリープが多いですが、5mm以上の時は定期的に腹部超音波検査を受けましょう。胆嚢ポリープを指摘されたら、当クリニックを受診してください。

膵臓とは

膵臓は胃の後ろにある、長さ20cmほどの左右に細長い臓器です。右端のふくらんだ部分を膵頭部(頭部)といい、十二指腸に囲まれています。左側の幅が狭くなっている部分は膵尾部といい、脾臓に接しています。膵臓の真ん中は体部といいます。膵臓全体には、膵管という細長い管が、膵臓を貫いて網の目のように走っています。お腹の深いところに位置し、他の臓器や血管に囲まれているため、腫瘍があっても見つかりにくく、診断のための組織採取も難しい臓器です。

膵臓には2つの役割があります。

  • 外分泌機能:食物の消化を助ける膵液をつくり分泌すること
  • 内分泌機能:血糖値の調節などをするインスリンなどのホルモンをつくり分泌すること

膵液は膵管によって運ばれ、主膵管という1本の管に集まります。主膵管は、十二指腸乳頭で、肝臓から総胆管を通って運ばれてくる胆汁と合流して十二指腸へと流れていきます。

膵炎

膵炎とは

急性膵炎と慢性膵炎に分けられます。

  • 急性膵炎:膵液(膵臓から分泌される消化液)によって、膵臓周囲の臓器が損傷されている状態です。原因としては、アルコール、腹部外傷、胆石があります。発症することで、みぞおちから左上腹部にかけて痛みが強く現れるほか、背部痛、吐き気、食欲低下などの症状がみられるようになります。なお、急性膵炎は重症化するリスクと死亡率が高いといわれていますので、急性膵炎が疑われる場合は速やかに受診してください。
  • 慢性膵炎:膵臓に長期間の炎症が起きてしまっている状態です。膵臓の細胞は線維化してしまい、臓器は硬化するようになります。その結果、膵臓の機能が失われていきます。多量の飲酒を毎日続けている方によく見受けられます。なお女性の場合は、原因不明の特発性慢性膵炎によって発症することもあります。

よく見られる症状は上腹部や腰背部の痛みです。腹痛は食後数時間経過した後に現れるようになりますが、前傾姿勢(前かがみ)になると楽になります。その他、腹部膨満感、吐き気、嘔吐、食欲不振、体重減少や下痢も現れます。慢性膵炎の病状が進行するとインスリンが不足して糖尿病を併発することもあります。